2017年4月17日月曜日

拒絶する小野小町

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花の色はうつりにけりな いたづらにわが身世にふるながめせしまに    小野小町

ふたたび小野小町の話題です。

小野小町を主人公にした能はいくつかありますが、その中のひとつ「通小町」では、小野小町とともに深草の少将が登場し、百夜通い(ももよがよい)の様子を再現します。

the 能 com
http://www.the-noh.com/jp/plays/photostory/ps_023.html

百夜通いとは、「私とお付き合いがしたいのなら、百夜続けて通っていらっしゃい。おできになるかしら」という美女に、「承知した」と通い続けたけれど、結局お付き合いできなかったというお話です。
 美女に求愛を拒絶されたことのある人たちが、次に紹介するような既成の話をすり替えて、美女代表の小野小町の説話にしちゃったのではないかな。いやぁね。
                                                                     
 一条天皇の御時、天皇の御前で殿上人たちが「歌論義」をしていました。藤原公任(五十五番)が書きとどめた記録の断片が、後の時代の歌学書に伝わっています。「歌論義」とは、和歌の未解決問題をとりあげ、人々がそれぞれの家に伝わる説を披露しあうものです。一条天皇の御時だけでなくその後の時代になっても、また宮中だけではなく個人の邸などにも集まって、熱心に意見交換をしていたようです。文学の分野では、正解はひとつではありません。だから論議の場にこまめに参加したり、昔の記録を広く集めるなどして、たくさんの説を知っている人が尊敬されます。他の人の説を上から目線でばっさりと切り捨ててばかりいると、敬遠されます。それは今も同じですね。
  平安時代後期の歌人、藤原清輔(八十四番)は、歌学界の蘊蓄(うんちく)王です。袋草紙(ふくろぞうし)、和歌初学抄、奥義抄(おうぎしょう)など、たくさんの歌学書をのこしていますが、奥義抄に、このような問答が記されています。

暁のしぢのはしがきももよかき君が来ぬ夜はわれぞかずかく

問云、この「しぢのはしがき」とは、どのようなことですか。
答云、例の歌論義にはこのようにあります。
 むかし、なかなかなびいてくれない女に求婚する男がいた。真剣に交際したいと思いを伝えたところ、女は試してみようと思って、男がいつも通ってきては語りかけてくる場所に「しぢ」(牛車をとめるときに使う台)を置いて、「もし、この上で百夜続けて寝たら、あなたの求婚を受けいれることにするわ」と言った。男は雨の降る時も風の吹く時も、日が暮れるとやってきては「しぢ」の上で寝ていた。「しぢ」の端に寝た夜の数をかいていき、見ると九十九夜になった。そこで、「明日からは、何があっても拒絶できませんからね」などと言って帰った。ところが男の親が突然死んでしまったので、その夜は行くことができなくなってしまった。そのときに、女からおくられてきた歌である。
 これはある秘蔵の書物の中にある話だということですが、実際に見たことはありません。(奥義抄)

この「歌論義」のきっかけは、ある人が持っていた古今集の本文が、みんながよく知っていた本文とは違っていたことです。当時みんながよく知っていた本文は、現在もそのまま使われています

暁のしぎのはねがきももはがき君がこぬ夜は我ぞかずかく(恋五・七六一)

 明け方になると聞こえてくる、飛び立つ鴫の羽がきの音、百羽の鴫の羽がきの音。あなたが来てくださらなかった夜は、鴫の羽〈がき〉ではないけれど、あなたが来ない夜の数を私が〈かき〉ます。

 この女性は、バサバサと飛び立つ鴫の羽音を聞きながら、今日もこない、昨日もこなかったと手帳にメモしていたのですね。とにかく、「しぎのはねがき」が「しぢのはしがき」となっている本があって、それが1本や2本ではなかったのです。そこで、これはどういうことやと意見交換が行われました。

 昔はコピー機などはないので、書物はすべて手で写していました。とうぜん書き間違えることがあります※。でも、書き間違いですませないで、いろいろなお話を新しく創作してしまうのが、古文の世界のおもしろさ。それが、いつのまにか有名人の小町の説話に変わっているというのも、古文の世界のおもしろさです。理屈じゃないんです。

※書写する人が、こっちのほうがいいんじゃないと本文を書き替えたり、付け足したりすることもありますが、ややこしくなるので、それはまた別の機会に。


                                             

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