これは角川ソフィア文庫の中の1冊、「カラー版百人一首」の表紙です。和歌1首が1ページにまとめられ、現代語訳、ミニ知識とともに、光琳かるたの読み札と取り札が大きく印刷されています。定価は480円+税。お値段もお手頃。パラパラめくるには紙の本のほうが便利ですが、電子書籍にもなっていて、かるたの色は電子書籍のほうがきれいです。
光琳かるたは読み札に作者の絵、取り札に和歌の内容につながる絵が描かれていて、絵をながめているだけでも楽しめます。
このブログでは、百人一首の100首の歌を入口にして、和歌のこと、作者たちのこと、平安時代のあれこれを、書いていこうと思います。
「学生時代の古文の呪いを、わらわが解いてしんぜよう」などと大口をたたくことはできませんが、ちょっとおもしろいじゃないかと思っていただければ幸いなり。
読み札に描かれた作者の表情はじつに個性豊かですが、なかなかいい味を出しているのが、三十三番の紀友則です。今風にいうと癒やし系?和歌はもっと癒やし系です。
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ 紀友則
光琳かるたの取り札には、お日さまを意味する赤い丸と桜の木が描かれています。日ざしが明るく、ふんわりと暖かい春の日、友則さんは桜の木の下でウトウトしている。そんなのんびりとした春の日なのに、気がつくとせっかく咲いた桜の花が散っています。「しづ心」は静かな心。「しづ心なく」ですから、〈静〉の反対の情景を想像してみてください。桜はどのように散ってるのでしょうか。〈静〉の反対は〈動〉です。
友則の歌の解釈の決め手は文末の「らむ」です。現在推量の助動詞といわれていますが、もうすこしくわしく説明すると、現在おこなわれていること・現在おこっていることについて、目に見えないことを想像する助動詞です。たとえば、目の前で泣いている人をみながら、「この人はなぜ泣いているのだろう」、「お腹がすきすぎて泣いているのだろうか」と、目には見えない心の中を想像する用法、「あわててでかけた彼は、いまごろ駅に着いただろうか」と目には見えない離れた場所で現在おこなわれていることを想像する用法などがあります。友則の歌は、目の前でどんどん散っていく桜の花を見ながら、どうしてこんなにのどかな日に散るのだろうかと、桜の心の中を想像しています。
光琳かるたの読み札に描かれた友則さんは、
「こんなに気持ちのいい春なんだからさ~、そんなにあわてて散らなくてもいいんじゃない~、もっとのんびりしょうよ~」
と桜に呼びかけているように思えます。
2017/04/12
2017年4月13日木曜日
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